Sunday, December 14, 2008

イスラエルとイスラム世界、日本と中国

先日、ビジネスマン、プロフェッショナルの方々の勉強会で、オバマ政権について手短にお話しする機会があったところ、参加者の方々の中から、メールでご質問があり、その後のやり取りの中で、イスラエルが置かれている状況が日中関係について暗示するものについてのご感想がありました。そのテーマが、もともとブログを始めたころの志にかなっていたので、この場を借りてご返事させていただくことにします。あしからず。
 私は、経歴及び嗜好上たまたまこうした話題について多く見聞する機会を持ってきただけのことで、それが真知に結びつくかどうかは、その人の見識次第です。ついては、お話のあった、イスラエルと日本との比較についてお考えいただく上で何らかのご参考になるかと思い、いくつか気がついた点を申し上げます。

 ユダヤ人は、2000年以上にわたり自ら主導権を握る国家を持つことなく、主としてイスラム圏及びキリスト教圏で二等国民の地位に甘んじてきました。もっとも、その歴史のほとんどを通じて、イスラム圏ほうがユダヤ人に対して寛容であったことについては、ほぼすべての学者の意見が一致し、かつ、イスラム教徒たちが自慢とするところです。
さて、パレスチナの地ですが、ここは、旧約聖書に従えば、ユダヤ人が先住民をせん滅して自らの王国を樹立したところですが、その後、改宗、他民族の移住、通婚等によって、当地のユダヤ人は、回教徒、キリスト教等に混じって住む、決して大きくない宗教的マイノリティになりました。イスラエルという国は、ユダヤ人が、19世紀末から20世紀にかけてのトルコ帝国の瓦解から第二次大戦後のヨーロッパ諸帝国の崩落にいたるまでの間のヨーロッパ諸国による中東の分割支配体制の中で、立国の準備を行い、第二次世界大戦後には、自らがマジョリティを占める独立国家を作り出した、そこに世界中のユダヤ人を募って、国づくりを進めてきた、というのが、その歴史の実態です。こうした歴史を考えると、中東のイスラム教徒たちがイスラエルをたかだか60年の歴史しか持たない、ヨーロッパが不法に押し付けてきた、国家としての正当性を欠く存在と考えるのも、あながち突拍子なこととは言えません。また、その宗教指導者たちのほとんどが政教分離を否定しているイスラム教徒たちとしては、いったんイスラム教に服した地が異教徒の手に渡ることは、教義上も甚だ具合の悪いことです。このため、イスラエルは、その存在の正当性自体が、ほとんどの域内諸国から否定されているという、甚だ過酷な条件のもとに生きているのです。

日本は、というと、中国からも韓国からも、第二次大戦後、かなり一方的な民族的敵意を向けられてきていますが、太古の昔を除けば、一時的な侵略の試みこそあれ、その存在自体を否定されたことは、ありません。領土争いも、周辺のごく少数の無人島をめぐってのものであり、近年の経済水域や大陸棚の囲い込み合戦も、基本的には、交渉と取り決めという平和的手段で行われてきています。つまり、ほぼ一貫して、独立国家同士の関係であり続けてきたのです。その点、むしろ、英国とフランスの関係に比すべき点が多いでしょう。イスラエルにとって、隣国との不和は、国家存亡にかかわる問題であるのに対して、日本にとっては、単なる不快、そして経済的な機会損失程度の話なのです。

では、こうした隣国との関係、特に日中関係が将来にわたって安心できるものでしょうか。私の結論は、恐れるべきは、弱い中国であって、強い中国ではない、というものです。この結論は、6年前にニュー・ヨークのビジネスマンの集まりで中国についてお話した際に整理したもので、今も基本的に変わっていません。話せば長くなるので、ポイントだけ申し上げると、中国を脅かすものは、3つのD(Desertification (砂漠化:実は水不足の話ですが、3つのDにするためこうしました)、 Demographics (人口動態:当時は主として一人っ子政策を念頭に置いていました)、Democracy(人の移動:これは、解説しないとわかりにくいだろうと思います)であって、これらを乗り切らないと30年後の中国が大変なことになって、隣国の日本が特に大きな被害をこうむる、という議論です。強い中国は、経済的に開かれた中国でしかありえない、しかも、日本と同じ通商ルートが開かれていないと困るので、基本的な利害関係が一致している、日本は、強い中国と競争関係に立つが、敵対関係に立たない、というものでした。私のこういう総合的な見方が、比較的少雨数はであることは、承知しています。

なお、逆に、日中関係、日韓関係の経験がイスラエルとその近隣諸国との関係について多少とも示唆するものがあるとすれば、それは、主としてアラブ諸国に向けられるものであって、「未来志向」という言葉に尽きるでしょう。端的に言うと、やっちゃったことは、しょうがない、というものです。だが、これを話し出すときりがないので、また、気が向いたときにここで取り上げようかとも思います。

Wednesday, November 19, 2008

Note on “New US President and Next Leader in Japanese Politics”

 これは、国際大学情報発信センターで11月18日に開催されたセミナーのために用意した原稿です。とっぱなよりシナリオから離れてしまったので、予定していたことの大部分が言えませんでした。だからと言って、面白くなかったというわけではありませんが、無駄にするのも惜しいので、ここにご紹介します。



 私は、Eurasia Groupのアナリストではありません。従って、以下のメモは、同社の情報を念頭において作成しましたが、必ずしもその見解に一致するものとは限らず、あうまで私個人の意見を記したものです。

1)次期米国のオバマ政権はどのような政権になるか。

 一言で言うと、これは、たぶん Robert Dujarricが最初に言ったのではないかと思いますが、Commander-in-ChiefでなくJanitor-in-Chiefだ、つまり、少なくとも一期目は、「後始末政権」であって、経済の立て直しを図りながら、イラクからの撤収とアフガニスタンへの増派を進めるというのが、圧倒的に最優先課題だと思います。それ以外の点については、閣僚等の政治任命も含め、ブッシュ政権と違い、イデオロギー色をできるだけ薄めながら、比較的慎重にことを進めていくだろうと予想します。というわけで、内外で絶大な期待を寄せられていることが―CNNの最新の国内世論調査では、オバマへの支持率が75%、チェンジに期待できるとする回答が2/3近く、4年後には米国の状況が良くなっているとする回答が76%です-それが現実との落差拡大という形でかえって重荷になる危険もあるわけです。

 経済の立て直しについては、金融パニックは、今の7000億ドルの救済パッケージでとりあえず小康を得ているので、それをブッシュ政権から引き継ぎながら、並行して、相当規模の景気・経済対策を民主党が多数を占める議会と一緒に組み立て、実行していくということになります。その中で、1)オバマ流のユニバーサル・ヘルスケア実現への手掛かりを作り、2)教育改革にも手をつけようとするものと予想します。それに、ちょっとミスリーディングな表現でありますが、3)所得減税もやるでしょう。さらに、4)エネルギー・環境対策も重視していて、自動車業界救済策も、それでタガをはめていきたいでしょう。この4点というか、それらがオバマのチェンジの中身の核になるでしょう。それで2年後の中間選挙を経て、どこかの国は、全治4年だそうですが、その4年後までに景気回復が進んでいれば、オバマの再選がきわめて有力になってくる、というシナリオを想定して見守っていくことにしています。

 イラク、アフガニスタンについては、それぞれ情勢次第ですが、いずれも大変難題で、しかも、不確実性に満ちています。イラクは、治安、経済ともに改善されつつあるが、宗派間、民族間、党派間の安定的均衡を可能にする政治的条件が整う見通しが立ちません。ただ、イラクの国内事情もあり、遅かれ早かれ米軍が主役の座を降りることは、マケインの場合でも大差なかったでしょう。アフガニスタンは、治安が徐々にではあるが着実に悪化しており、出口が見えません。ただ、これまたテロとの戦いの主戦場で状況が対応を形作っていくことに変わりありません。
 外交面のほかの大所では、パレスチナ問題、イランの核開発計画をはじめとする中東問題、北朝鮮の大量破壊兵器・弾道ミサイル開発問題については、いずれも、ブッシュ政権後期の対話路線を続けていくでしょう。オバマは、パレスチナ問題を解決に向けて大きく進めるだけの国内政治上のレバレッジを持っていません。イランの核開発計画については、経済制裁(特に投資規制が効いている)に原油価格の低下が当分続けば、多少希望が持てるでしょう。ただし、米政権交代の合間を縫ってイスラエルが核施設攻撃を行う可能性が若干あることに留意すべきでしょう。北朝鮮については、金正日政権としては、とりあえず取るものは取ったので、核兵器(?)、貯蔵プルトニウムの提出といった、対米国交正常化につながっていくような措置に進むことは、当面考えられないと思います。そのほか私が気になってしょうがなかったのが、対ロシア関係です。実は、私は、マケインのロシアに対する敵対的姿勢について大きな懸念を持っていて、これが両候補の対外政策上の最大の違いだと思っていました。オバマの下で、とりあえずミニ冷戦は回避できたのかなと思っています。
 なお、経済、外交の双方にまたがるものとしてFTAの見直しがありますが、これは、実質的な影響があまりないと予想していますのが、話が長くなるので、とりあえず省略します。
 他に米国内で重要なのは、連邦裁判官の指名権です。今、最高裁がリベラル派、保守派それぞれ4名ずつに中道派が1名、という構成になっていて、向こう4年の間、つまり新大統領の任期中にリベラル派裁判官が2名退任するものと予想されています。民主党議会の承認が必要だといっても、大統領の意向に対する抵抗には一定の限界があります。また、最高裁が取り上げる事件数に限りがあるので、広く連邦下級法廷の裁判官の指名権があることも、とても大事です。

 こうしてみると、後期ブッシュと比べてたいして変わり映えしない、どこにチェンジがあるのだ、とおっしゃるかもしれません。確かにそうですが、もともとオバマの「チェンジ」は、政治、社会のプロセスそのものを変えて国民の統合を深めていこう、というところに重点があって、その結果、具体的な措置そのものは、必然的に現実的、プラグマティックなものになっていくのです。しかも、内外情勢が極めて厳しく、独自の工夫を凝らす余地が乏しくなっている、誰がやっても同じようなことになっている、ブッシュ大統領の変身がその何よりの証拠だ、というわけです。
 ただ、オバマにあってマケインにも米国のほかのどの主立った政治家にもないものがあります。つまり、世界中から圧倒的な好意で迎えられていることが、とても大きなポリティカル・キャピタル、国際的グッドウィル、オバマの持ち札になっているわけです。というわけで、期待値が高いのは大変だが、限界的なところでは、これが確実に効いてくるし、より一般的には、米国に対する好意へとつながっていくことも大事でしょう。
 

2)民主党政権になるとアジア政策(特に対日と対中)がどう変わるか。

 アジアは、北東はロシアから南西はイエメンまで続いているので、「アジア」について議論をする人は、その都度、国、地域、そして課題をはっきりさせる義務があると思っています。余談ですが、日本がアジアに対して謝罪しないと日本はアジアでリーダーシップを取れないという外国人が「アジア」や「リーダーシップ」や「謝罪」という言葉について定義できないままいい加減な議論をしているのをよく見受けます。という前置きで、対日本、対中国に絞ってお話しします。オバマ政権になったから変わるということは、基本的にはないと思います。変わることがあるとすれば、それは、米国の政権交代の結果としてではなく、状況の変化の結果としてのことです。具体的な問題に沿ってご説明しましょう。

 対日関係のほうがわかりやすい。
 日本の政財官のリーダーたちの間では、マケインのほうがいい、というのが圧倒的な声だったように思います。それは、ひとつには、共和党が自由貿易主義、民主党が保護主義という印象、イメージが強いこと、それに加えて、共和党の両ブッシュ大統領の日本に対する気配りが手厚かったのに対して、民主党のクリントン大統領の下で、経済摩擦の激化に加えて、中国優先のジャパンパッシングがあった、という印象が強いことが背景になっています。さらに、直近では、マケインがアジア・太平洋地域において、同盟国としての日本を最も重視する考えをはっきりと打ち出したことが、好感を呼んだ一方で、民主党の候補者たちがほとんど日本のことに触れようとしなかったことが効いたようです。
 だが、まず、安全保障問題について言うと、安全保障条約の下での日米同盟のあり方ないし米軍再編についての米国の方針が変わることがありうると感じさせるものは、オバマの場合にもありません。北朝鮮については、すでに述べたとおりですが、拉致問題についても、オバマ政権だからと言って特に期待できることを思わせられる動きが一切あるわけではありませんが、特に、まずくなると思わせる理由もありません。マケインのほうがより気配りをしてくれることになったかもしれませんが、いずれにしても、テロ支援国家の再指定があるとすれば、それは大量破壊兵器がらみであって、拉致問題の成り行きによって左右されるものでありません。
 経済問題について言うと、レーガンからブッシュ・シニアの時代にも、貿易摩擦がありました。ただ、クリントン大統領が就任したのは、米国経済が悪化したのを受けてブッシュ大統領の再選を阻止したうえでのことであり、時あたかも日本の経済バブルが頂点に達しようとしていました。いわば状況が経済摩擦の激化を招いたという面があったことを忘れてはなりません。また、ここだけのことで言えば、ブッシュ・ジュニアの時代にも、ドーハ・ラウンドを中心に、ロバート・ゼリックのジャパン・パッシングも相当なものだったように思います。民主、共和両党の違いがないとは言いませんが、時代的背景によって作られてきたイメージの部分がきわめて大きいと思います。いずれにせよ、二国間で言えば、ブッシュ時代と同様、単発的事件を除けば、比較的無風状態が続くはずなのです。それがジャパン・パッシング、ジャパン・ナッシングだと言うのなら、それも悪くありません。デトロイト・スリー―もうビッグ・スリーと呼ぶ人がほとんどいなくなりました―デトロイト・スリーの救済で少しプレイング・フィールドが傾くことはあっても、トヨタも、ホンダも、日産も、いずれも、事業所ベースでは米国のメーカーでもあります。通商摩擦として発火するということはないと考えたい。
 ただ、ここにきて、金融・経済危機への対応で他の先進国、新興市場国に応分の役割分担を求めてきており、日本が多くの外貨準備を抱えていて、中国と違ってそれを主として米国の政府債で運用しているらしい、また、リスクを増やさないで済むのであればという前提条件付ではあるのでしょうが、それを機動的に差し出す用意があることを金融サミットで示したことには、マルチの場における胴元としての効用を知って、オバマ陣営でも少しは見直したのではないかと思います。

 中国については、断言できるほど自分で考えていませんが、基本的は変わらないだろうと見ています。外交・安全保障では、引き続き協力できるところは協力していくだろうし、特に北朝鮮の核問題が暴発しないようにするためには、中国の協力が最も大切です。アフリカその他の地域では、できるだけ責任ある対応を求めており、中国当局も、米国政府の不満が爆発しないよう引き続きそこそこな手を打っていくでしょう。民主党およびその支持者の間で、チベットをはじめとする人権問題について強硬姿勢を求める向きも多いでしょうが、オバマ政権下での人権問題の実質的な優先度は、ケース・バイ・ケースでしょう。ブッシュ政権が11月11日にビルマ特使として毎度おなじみマイケル・グリーンを任命したが、これが仮にオバマ陣営の了解を得たうえでのことでなかったとしても、オバマ政権でも、人権問題については、手をつけやすいところから手をつけていく、ということでしょう。中国ないし対中関係を不安定化させることは、今の米国の国益に反する―そんなことをオバマ氏が望むはずがありません。エネルギー・環境問題については、気候変動条約の枠組みに戻り―ただし、京都プロトコールに調印するとは、私の知る限り言っていない―京都プロトコール後の体制に取り組みたいと言っているので、一国家としては温室効果ガスの最大排出源である中国に対する働きかけも活発化していくということはあるでしょう。
 経済問題については、二国間では、ポールソン財務長官主導の「経済戦略対話」がそろそろ息が切れ始めていたので、金融危機への対応策、そして景気対策が一段落したところで仕切り直す、ちょうどいい区切りができたのだろうと思います。といっても、対中要求事項は、知的所有権の保護、外資いじめの阻止、そしてマクロ的には人民元の切り上げを含め経済成長における内需の役割拡大などと、ブッシュ時代とあまり変わり映えがしないでしょう。その際念頭に置いておくべきことは、単純化していえば、日本の場合、日本企業が主として米国企業と競合する製品を輸出したのに対し、中国の場合、完全子会社から委託生産まで形態はまちまちだが、米国企業のサプライ・チェーンの中に組み込まれた製品が輸出されているという違いがあって、それは、当面変わりない、つまり、単純にバッシュするには、国内の利害関係が複雑すぎるということでしょう。
 余談になりますが、日本の外貨準備は、1兆ドルにちょっと足りないわけですが、その大部分が米国の政府債だと見られている、ところが中国は、2兆ドルほどあるのですが、その1/4程度しか米国の政府債を持っていない。マルチでは、中国を含めて新興市場国を含めた国際的役割分担が大きな課題になっていくので、どなたか、中国の実態をご教示願えればと思っています。

 最後に一言、米国における対日関係の優先度は、低いのだが、それを不幸中の幸いと受け止めるべきです。北東アジアは、平和である。中国、韓国は、ともにステータス・クオ・パワー、現状維持勢力、北朝鮮も別の意味でそう、そして、ロシアも、極東では差し迫った脅威になっていない。

3)オバマ政権とうまく協力していくために日本は何をすべきか。

 できたらいいなあと思うことはいろいろあるのですが、できるかもしれないと思うことに絞ってお話しましょう。そうなると、あまりお話しすることがなくなってしまうのですが。また、国内の景気回復および経済化改革の推進は、当たり前のこととして省略します。そこで、日本がすべきことは、端的に言うと、グローバル・インフラの維持・強化の国際的肩代わりが進んでいくだろう中で出来るだけ大きな役割をはたすようにしていくことです。米国の相対的国力の低下は、歴史的な趨勢です。それは、ブッシュ政権後期のありかたにも反映されていますが、オバマ政権こそは、国際協調、国際協力をはっきりと前面に押し出していくことになります。その中で、日本は、市場経済および自由主義を基本とする民主国家です。また、資源ネット輸入国でもあります。グローバル・インフラに関する利害関係、従ってその将来の方向性についても、基本的に一致しているはずです。
 わかりやすい、経済のほうからいきましょう。まず当面無視していいのが、通商インフラのWTO。ドーハ・ラウンドは、そもそも各国の利害が対立しすぎて調整不可能だと思いますが、日本が調整役を務める可能性は、それ以上に乏しい。週末の金融・経済サミットでは、年内にも交渉を進めようということが共同宣言に書き込まれましたが、大臣級も含めた顔合わせが年末にかけて催される、というところかと思います。
 金融インフラは、確かに時代遅れになっています。私にとってWTO以上に知らない分野で、あれこれ言うのもはばかられるのですが、日本は、従来、アジア通貨基金構想に象徴される、地域主義的な動きをとってきており、これはこれで通過スワップの合意から日中韓の間でそれを深化させていく形で成果を収めてきましたが、ここにきて、G20という形でグローバルな形で新興市場諸国をインフラの担い手としての責任と権限とを持たせる方向性が出てきている。日本の当局、金融業界は、前者の流れを活かしながら、グローバルな制度設計でリーダーシップの一端を担っていくよう努力すべきだし、また、それを日本がしようとすることに対する内外の抵抗も比較的低い課題だと思います。
 エネルギー・環境問題については、オバマ、日本政府ともに重視する姿勢をとっています。だが、その国際的枠組みについては、オバマは、私の知る限り、気候変動条約の京都プロトコールに米国を参加させると一度も言っていない。また、そうするには、政治的コストが高すぎるでしょう。国際的には、おそらく、ポスト京都に重点を置いて、新興市場国の取り込みをはかりながら、国内でキャップ・アンド・トレードなどの方法で省エネ・新エネを追求していくということになるでしょう。私は、ポスト京都については、エネルギー関連税制を根本的に変えていく必要があると思っています。
 安全保障については、これは、テロ対策で後退しないというのが一番大事です。オバマは、これを非常に重視しています。アフガニスタンが主戦場だと言っています。事実、アフガニスタンおよびその周辺での協力は、海賊対策もこれに深く関連しており、むしろ関連付けて対応策を講じていくべきでしょう。本当は、イラク、イラン、イスラエル・パレスチナ、レバノン等の中東全体が抱えている諸問題について改善の方向に向かわせることができればいいのですが、そうは問屋がおろさないでしょう。他にこの分野では、核不拡散、軍縮等もありますが、これらについては、ビジネスアズユージュアルということになるでしょう。北朝鮮の核問題については、すでに申し上げた通りです。
 以上、はなはだ簡単で申し訳ありません。Q&Aでできるだけ皆様のご関心にお答えすることによって埋め合わせしたいと思います。

4)日本を正しい方向に導く次期政治リーダーは誰か。

 米国との関係だけで言えば、極端なことを言えば、誰でもいいのです。もっと言えば、アジア・太平洋における米国の兵力の前方展開のプラットフォームとしての役割を果たし続けることに反対するような政治リーダーがいない以上、日本の都合だけで首相を決めてもさしたる不具合がない、ということです。他方、リーダーの資質みたいなものを論じる能力は、私にはありません。というわけで、この先は、チープな低レベルの床屋政談だと思って聞いてください。
これからの日本は、短期的にも、長期的にも大変な多くの課題を抱えています。首相が神輿ではすみません。第一に、是非ともトップをやりたい、という人にやってもらいたい。日本の総理大臣は、60代、70代の、髪の毛を染めた二代目、三代目が一族郎党への義理、義務感に駆られてやる芝居事ではなくなっているのです。リーダーとしての実績がない人がやる仕事でなくなっているのです。第二に、国民に対する訴求力が必要です。そのためには、メディアに好かれることがとても大事です。表面に立つことを恐れないことです。演出家は、主役になれない。第三に、政局次第の日替わり方針は、国民の不安と不満を高めるだけ、はやり言葉で言えば、ぶれないことです。これは、内閣総理大臣について言えば、閣内不一致を許さないということでもあります。
 今のままでいくと、次は麻生首相留任か小沢首相誕生か、ということになるのですが、小沢代表が自民党以上に不人気です。で、今日本で最も人気がある政治家と言えば、橋下、東国原両知事です。米国では、オバマ氏が当選しました。時の運がそれぞれにありますが、いずれも、一から三までに照らして、それなりに納得いくと思いませんか。というより、これらの顔触れと、それに近年の首相職における不作とを併せ考えているうちに思いついたことを申し上げた次第です。


1 (4:00-4:15):
Brief introductory remarks (5 minutes each: Togo – Okumura – Givens)
"How would you characterize Mr. Obama as US President-elect?"
「次期大統領としてのオバマ氏を一言で表現すると?」
2 (4:15-4:45):
First main presentations (10 minutes each: Givens – Togo – Okumura)
"How is Asia policy (especially toward Japan and China) likely to change, as Republican Bush administration is succeeded by Democratic Obama administration?"
「ブッシュ共和党政権からオバマ民主党政権になることで、米国のアジア政策(特に、対日と対中政策)がどのように変わるのか?」
3 (4:45-5:15):
Second main presentations (10 minutes each: Togo – Okumura – Givens)
"What should Japan do on its own to work effectively with the Obama administration (in financial, trade, diplomatic and security terms?"
「日本はオバマ政権とうまく協力していくために(金融、貿易、外交、安全保障面で)、日本自身の立場から何をすべきか?」
4 (5:15-5:30):
Brief concluding remarks (5 minutes each: Givens – Okumura – Togo)
"Who should (or is most likely to) be Japan's next leader for Japan to move in the right direction, along with the new US leader?"
「新しい米国のリーダーと共に、日本を正しい方向に導く次期政治リーダーには誰がなるべきか(あるいはなりそうか)?」
5 (5:30-6:00):
Q&A: Free discussion (basically in Japanese, but possibly in English)

Thursday, May 8, 2008

クリントン追伸、ネット時代のメディア

おととい、この場で、クリントンは撤退しないがオバマ攻撃を控える、と予測しましたが、Politicoによると、早速そうしているようです。クリントンは、良くも悪くも切り替えの早い人です。もとよりメディア、ネットは、一斉に事実上の敗退宣告ないし撤退勧告を行っています。

特別代議員のほうについては、改めて考えてみれば、いい子にしているからオバマに軍配を上げるのは待ってくれと個別に頼み込むのは難しい話で、オバマが6日には1名、7日にはさらに4名差を埋めて、特別代議員の支持差が11にまで縮まりました。だが、8日には動きがなく、本当に雪崩を打ってオバマに傾く前に、党長老たちが態度未表明の特別代議員の多くの意を汲むかたちでクリントンに引導を渡しに行くのだろうと、今のところ私は考えています。

 ちなみに、Politicoについては、サイト上の説明のほか、Wikipediaにそれなりの情報が載っています。報道と評論とを兼ねたワシントンに居を構える新興政治紙で、ハードコピー版を週3回、発行しています。各種政治ブログに加えて、ほかにこういったオンライン中心の新興ジャーナリズムがあり、さらに従来からあった新聞雑誌も加えて、アメリカでは、ネットとメディアとが融合して、プロ・アマ、ジャンルの垣根もなくなってきて、賑やかな限りです。もちろん、政治メディアに限ったことではありません。日本はどうかというと、マス・メディア側では、サンケイ以外は本格的に乗り出しているところがないようです。一番大きな存在が匿名投稿欄の「2チャンネル」というのは、さびしい。

Wednesday, May 7, 2008

民主党の大統領候補指名争い事実上終了

 アメリカの大統領選挙の成り行きは、世界全体に影響をもたらします。日本は、もとよりです。来月、そのことについて日本語で話をすることになりましたので、準備を兼ねて日本語のブログを始めることにしました。英語のほうは、日本のことが中心になってしまったので、こっちはアメリカ、そして世界を中心に書いていくつもりです。もとより英語でのコメントも、歓迎します。乞御期待。

民主党の大統領候補指名争いは、5月6日の二つの予備選をもって、代議員数計217名を擁する6州・属領、そしてReal Clear Politicsの計によれば5月6日現在で支持先未定の連邦議員、知事、党幹部等からなる特別代議員114名の意思決定を残して、事実上終わりました。そもそも、あとで説明するように、ヒラリー・クリントン上院議員(民主、ニューヨーク州)は、もう随分前から候補者指名を受ける可能性がなくなっていたのですが、今回、イリノイ州で51%対49%と辛うじて勝ち、ノースカロライナ州で42%対56%と大敗した*ことで、自分にもまだチャンスがあるのだということをメディアやインターネットを通じて主張するにも手詰まりになってきました。まいったとは絶対に言わないクリントン夫妻のことですから、ここでクリントンが完全撤退することはなく、安上がりの選挙運動を続ける可能性が十分あります。ただし、クリントン陣営としては、ネガティブ・キャンペーンを引っ込めて‐もちろんオバマ陣営も同じようにするというのが条件ですが‐淡々とした褒めあいキャンペーンに切り替える、政策面でも類似点をプレイ・アップする。その代りに、と言ってはなんですが、予備選が終わるまで態度未定の特別代議員が雪崩を打ってオバマ支持に回るのを控えてもらうようにしてもらうのではないでしょうか。つまり、和解手続きに入っていくというわけで、それは、オバマ陣営としても、願ってもないことではないでしょうか。ついでに、もっと先のことまで想像たくましく言ってしまうと、最後は、ミシガン州の代議員を両陣営の主張を足して二で割った妥協案で分け合い、フロリダ州の代議員を無効とされたその予備選の結果どおり分け合って、クリントン及び両州の民主党関係者たちの顔を立てる、そして、指名党大会前に残りの特別代議員のほとんどがそろってオバマを指名してその選出代議員数上のリードを全体数でさらに広げ、本番では、和気あいあいとした雰囲気の中で、1順目の投票でオバマが楽々当選する、というのが、私のシナリオです。

 以上は、クリントンがオバマの後釜狙いに戦略を変更することを前提にしています。2008年には64歳、2012年でも68歳、まだクリントンにはチャンスがあります。従って、勝てるかもしれないと言ってくれる向きがメディアから消え、代わっていい加減にしろというコーラスが高まる中で最後の頼みのネガティブ・キャンペーンを続けるのでは、もともとクリントン大統領の地盤だった黒人や、未来を担う若年層の支持を失いっぱなしにする危険があります。かと言って、ここまで来てあっさりと投げ出すのは、クリントンらしくありませんし、また、条件闘争をする機会をみすみす捨てることにもなります。そこで、今後は、八百長相撲を取って、あわよくば副大統領候補、ということで今回は手を打つ‐いかがです、もっともらしいでしょう。

 オバマとしても、これは、決して不都合なシナリオではありません‐ただ一点を除いては。予備選が続くことへの民主党リーダー層の不安、不満が高まっているのは、一つには、このままでは本選への準備で後れを取るとの不安があるからです。だが、予備選を続けることによってメディアの話題を独占しているというのは、それ自体は、決して不都合なわけではありません。真の問題は、最近になって、オバマについて言えば、その心の師であるライト牧師の過激発言や元都市ゲリラのエイヤーズ・ドーン夫妻とのつながり、さらには自らの発言が白人低所得層の離反を招く、といった大きな失点がメディアで大きくクローズアップされ、それをクリントン陣営が増幅させていることが、全体として党内統一やオバマのイメージ固めに不利に働き、それが本選でのマケイン相手の戦いでハンディを背負うことになる、というところにあるのです。もともと両候補の政策上の大きな不一致点は、ほとんどありません。クリーン・キャンペーンなら、オバマとしては、むしろ、メディアで無料広告をうっている、という程度のノリで進めることも可能です。それに、オバマは、クリントン、それに共和党のジョン・マケインを合わせてもかなわない大量の選挙資金を集めており、しかもたっぷりと余力を残しているので*、予備選が続くことへの資金面の不安もありません。それどころか、むしろ、クリントンのほうこそ、タニマチから引導を渡されて撃ち方止めを余儀なくされるかもしれないのです。それでも、予備選の候補者リストに名を残し、形式的には戦いが続く、ということになると思いますが**。

 で、そのただ一点を除いては、という話ですが、それは、「副大統領候補」というやつです。

クリントンとしては、副大統領候補になることは、勝っても負けても民主党のオバマの後の大統領候補への最短距離に位置取りをすることになるわけですから、それで手を打つことができれば、願ってもありません。また、オバマとしても、白人層、女性プロフェッショナル(同じ女性としてクリントンに強く共感している人が多いのです)、そしてヒスパニックといった、自分の弱点を補うことができます。クリントンには、その経歴上の大小様々なマイナス面もあるのですが、副大統領候補なら、風当たりもぐっと弱くなります。また、クリントン陣営の党組織への影響力も無視できないし、経験豊かな政策・政局アドバイザー達の取り込みも必要です。オバマがクリントンと事を構えたくないのは、自身の和解的な気質にのみ由来することではないのです。

だが、誰もが認めるように、クリントンには、クリントン元大統領という、大きなおまけが付いてきます。

 クリントン大統領は、良くも悪くも、予備選における大きな存在でした。その一挙手一投足がメディア、ネットの関心を呼びます。また、本人も、それが楽しく、長く我慢しておとなしくしていられない、というのが実態のようです。しかも、その妻以上に、と言っていいくらい政策通ときている。たとえオバマがよしとしても、オバマ陣営の面々は、強い拒否反応を示すはずです。というわけで、この点が民主党の指名党大会までの間、最も注目に値すると私は踏んでいます。

以上が私の見方ですが、ともすると、世の中をあまく見ている、人間というものをあまくみているというのが、自分の予測の実績を振り返っての感想です。クリントンは、自信、頑張り、確信といった点で、常人の域をかなり超えています。それが、撹乱要因と言えば撹乱要因です。



 はじめに申し上げた、すでに勝負が決まっていたという点ですが、簡単に言うと次のとおりです。

 クリントンには、一つ以上前から、ミシガン、フロリダ両州で予備選を結果どおり有効と認めてもらわない限り、選出代議員数、有効投票数のいずれでもオバマに勝てなくなっていました。この2州は、党の組織決定に反して予備選の早期実施を決め、その結果組織決定によって選出代議員の投票資格をはく奪されました。その決定は、クリントン自身も受け入れました。特に、ミシガンについては、クリントン以外の候補者は、全員がその名前を候補者リストから落としました。それを組織決定で事後承認し、その結果クリントンが指名を受けるようなことでもあれば、黒人、若年層が離反することは目に見えています。また、オバマの強みである穏健な共和党支持者、無党派層といったところは、共和党候補のマケインが強みを発揮するところでもあります。また、ここまでクリントン夫妻の懇願にもかかわらず支持表明を拒んできた特別代議員が、この期に及んで草の根の意向に逆らってまでクリントンに票を投じるには、よほどの理由が必要です。

 以上のことは、特別代議員のこれまでの行動をたどれば明らかになります。確かに、3月4日のオハイオ、テキサス、そして4月22日のペンシルベニアといった黒人票の比較的少ない大票田でのクリントンの勝利は、オバマの本番での成算に懸念を待たせるものでした。また、オバマの失言やライト牧師の妄言と相次ぐ暴発といった事件が大統領候補オバマに大きな打撃を与えたのも、事実です。だが、オバマ陣営の周到な選挙戦略とそれとは対照的なクリントン陣営の不手際によって、数字の争いで追いつく余地のないところにクリントンが追い込まれてしまった事実は、変えようがありませんでした。

以上は、単なる憶測ではありません。特別代議員も同じように考えているはずです。というのも、3月以来、特別代議員の動向を見てきたのですが、3月4日のスーパーチューズデー後にうわさされていた大勢の特別代議員によるオバマ支持の発表はありませんでした。そして、3月中にはほとんど動きがなく、オバマが3名クリントンのリードを詰めただけでした。だが、4月上旬には、さらにその差を6名詰めました。その後、ライト牧師の暴発とそれに対するオバマの絶縁宣言といった事件やペンシルベニアでのクリントンの大勝もありましたが、月末までにさらに5名差が詰まりました。また、5月に入って、1-5日の間にさらに6名がオバマ支持を打ち出しました。つまり、6日の両予備選の結果を待たずに、特別代議員がオバマに傾斜し、しかもその勢いは、オバマ・キャンペーンのトラブルにもかかわらず増しつつあったのです。

で、そこへきての今回の結果です。それは、予想どおりの痛みわけですが、唯一クリントンの頼みだった得票率でさえ、事前の大方の予想の範囲内で言えば、どちらかと言えば、オバマ善戦という結果に終わりました。これで、あとは、どう頑張っても、特別代議員を説得する材料がない、という状況にクリントンが追い込まれた、というわけです。クリントンが両方負ければ、撤退以外にないというのが大方の予想でした。だが、今回の結果でも、望みが断たれたことが、クリントン陣営にとってもはっきりしているはずです。

* 出口調査によれば、奇妙なことに、ノースカロライナ州でかなりの人数の共和党支持者が民主党支持者として登録して、しかも61%対33%という大差でクリントンに投票しています。これは、クリントンのほうが与し易し、ついてはクリントンに投票しようという呼びかけを行った有力右翼コメンテーターのラッシュ・リンボーの仕業だと思われます。それがなければ、さらに2%程度差が開いていたはずです。ちなみに、詳細は避けますが、このCNNのサイトは、情報豊富ですが、前から欠陥が多いので、Real Clear Politics等で補完しないと危険です。

** これは、決しておかしなことではありません。たとえば、共和党のほうでも、マイク・ハッカビー、ロン・ポール等が予備選に名前を連ねており、依然としてそれなりに票を集めています。ポールに至っては、積極的に選挙運動を続けています。