Wednesday, May 7, 2008

民主党の大統領候補指名争い事実上終了

 アメリカの大統領選挙の成り行きは、世界全体に影響をもたらします。日本は、もとよりです。来月、そのことについて日本語で話をすることになりましたので、準備を兼ねて日本語のブログを始めることにしました。英語のほうは、日本のことが中心になってしまったので、こっちはアメリカ、そして世界を中心に書いていくつもりです。もとより英語でのコメントも、歓迎します。乞御期待。

民主党の大統領候補指名争いは、5月6日の二つの予備選をもって、代議員数計217名を擁する6州・属領、そしてReal Clear Politicsの計によれば5月6日現在で支持先未定の連邦議員、知事、党幹部等からなる特別代議員114名の意思決定を残して、事実上終わりました。そもそも、あとで説明するように、ヒラリー・クリントン上院議員(民主、ニューヨーク州)は、もう随分前から候補者指名を受ける可能性がなくなっていたのですが、今回、イリノイ州で51%対49%と辛うじて勝ち、ノースカロライナ州で42%対56%と大敗した*ことで、自分にもまだチャンスがあるのだということをメディアやインターネットを通じて主張するにも手詰まりになってきました。まいったとは絶対に言わないクリントン夫妻のことですから、ここでクリントンが完全撤退することはなく、安上がりの選挙運動を続ける可能性が十分あります。ただし、クリントン陣営としては、ネガティブ・キャンペーンを引っ込めて‐もちろんオバマ陣営も同じようにするというのが条件ですが‐淡々とした褒めあいキャンペーンに切り替える、政策面でも類似点をプレイ・アップする。その代りに、と言ってはなんですが、予備選が終わるまで態度未定の特別代議員が雪崩を打ってオバマ支持に回るのを控えてもらうようにしてもらうのではないでしょうか。つまり、和解手続きに入っていくというわけで、それは、オバマ陣営としても、願ってもないことではないでしょうか。ついでに、もっと先のことまで想像たくましく言ってしまうと、最後は、ミシガン州の代議員を両陣営の主張を足して二で割った妥協案で分け合い、フロリダ州の代議員を無効とされたその予備選の結果どおり分け合って、クリントン及び両州の民主党関係者たちの顔を立てる、そして、指名党大会前に残りの特別代議員のほとんどがそろってオバマを指名してその選出代議員数上のリードを全体数でさらに広げ、本番では、和気あいあいとした雰囲気の中で、1順目の投票でオバマが楽々当選する、というのが、私のシナリオです。

 以上は、クリントンがオバマの後釜狙いに戦略を変更することを前提にしています。2008年には64歳、2012年でも68歳、まだクリントンにはチャンスがあります。従って、勝てるかもしれないと言ってくれる向きがメディアから消え、代わっていい加減にしろというコーラスが高まる中で最後の頼みのネガティブ・キャンペーンを続けるのでは、もともとクリントン大統領の地盤だった黒人や、未来を担う若年層の支持を失いっぱなしにする危険があります。かと言って、ここまで来てあっさりと投げ出すのは、クリントンらしくありませんし、また、条件闘争をする機会をみすみす捨てることにもなります。そこで、今後は、八百長相撲を取って、あわよくば副大統領候補、ということで今回は手を打つ‐いかがです、もっともらしいでしょう。

 オバマとしても、これは、決して不都合なシナリオではありません‐ただ一点を除いては。予備選が続くことへの民主党リーダー層の不安、不満が高まっているのは、一つには、このままでは本選への準備で後れを取るとの不安があるからです。だが、予備選を続けることによってメディアの話題を独占しているというのは、それ自体は、決して不都合なわけではありません。真の問題は、最近になって、オバマについて言えば、その心の師であるライト牧師の過激発言や元都市ゲリラのエイヤーズ・ドーン夫妻とのつながり、さらには自らの発言が白人低所得層の離反を招く、といった大きな失点がメディアで大きくクローズアップされ、それをクリントン陣営が増幅させていることが、全体として党内統一やオバマのイメージ固めに不利に働き、それが本選でのマケイン相手の戦いでハンディを背負うことになる、というところにあるのです。もともと両候補の政策上の大きな不一致点は、ほとんどありません。クリーン・キャンペーンなら、オバマとしては、むしろ、メディアで無料広告をうっている、という程度のノリで進めることも可能です。それに、オバマは、クリントン、それに共和党のジョン・マケインを合わせてもかなわない大量の選挙資金を集めており、しかもたっぷりと余力を残しているので*、予備選が続くことへの資金面の不安もありません。それどころか、むしろ、クリントンのほうこそ、タニマチから引導を渡されて撃ち方止めを余儀なくされるかもしれないのです。それでも、予備選の候補者リストに名を残し、形式的には戦いが続く、ということになると思いますが**。

 で、そのただ一点を除いては、という話ですが、それは、「副大統領候補」というやつです。

クリントンとしては、副大統領候補になることは、勝っても負けても民主党のオバマの後の大統領候補への最短距離に位置取りをすることになるわけですから、それで手を打つことができれば、願ってもありません。また、オバマとしても、白人層、女性プロフェッショナル(同じ女性としてクリントンに強く共感している人が多いのです)、そしてヒスパニックといった、自分の弱点を補うことができます。クリントンには、その経歴上の大小様々なマイナス面もあるのですが、副大統領候補なら、風当たりもぐっと弱くなります。また、クリントン陣営の党組織への影響力も無視できないし、経験豊かな政策・政局アドバイザー達の取り込みも必要です。オバマがクリントンと事を構えたくないのは、自身の和解的な気質にのみ由来することではないのです。

だが、誰もが認めるように、クリントンには、クリントン元大統領という、大きなおまけが付いてきます。

 クリントン大統領は、良くも悪くも、予備選における大きな存在でした。その一挙手一投足がメディア、ネットの関心を呼びます。また、本人も、それが楽しく、長く我慢しておとなしくしていられない、というのが実態のようです。しかも、その妻以上に、と言っていいくらい政策通ときている。たとえオバマがよしとしても、オバマ陣営の面々は、強い拒否反応を示すはずです。というわけで、この点が民主党の指名党大会までの間、最も注目に値すると私は踏んでいます。

以上が私の見方ですが、ともすると、世の中をあまく見ている、人間というものをあまくみているというのが、自分の予測の実績を振り返っての感想です。クリントンは、自信、頑張り、確信といった点で、常人の域をかなり超えています。それが、撹乱要因と言えば撹乱要因です。



 はじめに申し上げた、すでに勝負が決まっていたという点ですが、簡単に言うと次のとおりです。

 クリントンには、一つ以上前から、ミシガン、フロリダ両州で予備選を結果どおり有効と認めてもらわない限り、選出代議員数、有効投票数のいずれでもオバマに勝てなくなっていました。この2州は、党の組織決定に反して予備選の早期実施を決め、その結果組織決定によって選出代議員の投票資格をはく奪されました。その決定は、クリントン自身も受け入れました。特に、ミシガンについては、クリントン以外の候補者は、全員がその名前を候補者リストから落としました。それを組織決定で事後承認し、その結果クリントンが指名を受けるようなことでもあれば、黒人、若年層が離反することは目に見えています。また、オバマの強みである穏健な共和党支持者、無党派層といったところは、共和党候補のマケインが強みを発揮するところでもあります。また、ここまでクリントン夫妻の懇願にもかかわらず支持表明を拒んできた特別代議員が、この期に及んで草の根の意向に逆らってまでクリントンに票を投じるには、よほどの理由が必要です。

 以上のことは、特別代議員のこれまでの行動をたどれば明らかになります。確かに、3月4日のオハイオ、テキサス、そして4月22日のペンシルベニアといった黒人票の比較的少ない大票田でのクリントンの勝利は、オバマの本番での成算に懸念を待たせるものでした。また、オバマの失言やライト牧師の妄言と相次ぐ暴発といった事件が大統領候補オバマに大きな打撃を与えたのも、事実です。だが、オバマ陣営の周到な選挙戦略とそれとは対照的なクリントン陣営の不手際によって、数字の争いで追いつく余地のないところにクリントンが追い込まれてしまった事実は、変えようがありませんでした。

以上は、単なる憶測ではありません。特別代議員も同じように考えているはずです。というのも、3月以来、特別代議員の動向を見てきたのですが、3月4日のスーパーチューズデー後にうわさされていた大勢の特別代議員によるオバマ支持の発表はありませんでした。そして、3月中にはほとんど動きがなく、オバマが3名クリントンのリードを詰めただけでした。だが、4月上旬には、さらにその差を6名詰めました。その後、ライト牧師の暴発とそれに対するオバマの絶縁宣言といった事件やペンシルベニアでのクリントンの大勝もありましたが、月末までにさらに5名差が詰まりました。また、5月に入って、1-5日の間にさらに6名がオバマ支持を打ち出しました。つまり、6日の両予備選の結果を待たずに、特別代議員がオバマに傾斜し、しかもその勢いは、オバマ・キャンペーンのトラブルにもかかわらず増しつつあったのです。

で、そこへきての今回の結果です。それは、予想どおりの痛みわけですが、唯一クリントンの頼みだった得票率でさえ、事前の大方の予想の範囲内で言えば、どちらかと言えば、オバマ善戦という結果に終わりました。これで、あとは、どう頑張っても、特別代議員を説得する材料がない、という状況にクリントンが追い込まれた、というわけです。クリントンが両方負ければ、撤退以外にないというのが大方の予想でした。だが、今回の結果でも、望みが断たれたことが、クリントン陣営にとってもはっきりしているはずです。

* 出口調査によれば、奇妙なことに、ノースカロライナ州でかなりの人数の共和党支持者が民主党支持者として登録して、しかも61%対33%という大差でクリントンに投票しています。これは、クリントンのほうが与し易し、ついてはクリントンに投票しようという呼びかけを行った有力右翼コメンテーターのラッシュ・リンボーの仕業だと思われます。それがなければ、さらに2%程度差が開いていたはずです。ちなみに、詳細は避けますが、このCNNのサイトは、情報豊富ですが、前から欠陥が多いので、Real Clear Politics等で補完しないと危険です。

** これは、決しておかしなことではありません。たとえば、共和党のほうでも、マイク・ハッカビー、ロン・ポール等が予備選に名前を連ねており、依然としてそれなりに票を集めています。ポールに至っては、積極的に選挙運動を続けています。

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